キス−キス TOPへ殿のご機嫌、斜めならず。聞いておどろけ見て笑へ、われらが殿の『スゥパァ=マリヲは本日も絶好調にござるぞよ。
いざや御見物衆、両の親指を立て、ともに戯(たわぶ)れやうぞ♪
世界は殿の手の内に
〜織田 信成〜

織田信成くんの滑りをはじめて見たのは、03年末のアイス・ショーでだった。
そのときは「ていねいできれいな滑りだなあ」って印象しかなかった。それとやはり、どっかで聞いたような名だと。かれの家系のことはまだ知らなかったんで「ああ、きっと親が信長ファンなのね・・『スラム・ダンク』に信長って選手が出てくるが、ああいう趣味の親って本当にいるんだなあ」と思っただけ。
まさか! 本当にあの信長のご子孫だったなんて!
まさか! 急に、こんなに脚光浴びるなんて!!
まさか! 世界Jrで、天下獲っちゃうなんて!!!
芸の世界で、とつぜん上手くなることを“化ける”っていうが、信成くんはまさしく“大化け”。いいプログラムに恵まれたってだけで、こうも変るか。おそろしいいねえ、十代の伸びざかりは・・。
去年、かれのホーム・リンクである大阪・高槻O2リンクが閉鎖になったのはつらかったろうけど、その痛みがまた、このめざましい成長の糧になったのかもね。(だからって、閉鎖されてよかったとは、間違っても思ってないけど)

05世界Jr録画は、信成くんの演技のとこだけすり減りそうなほど、毎日くり返し見てる。
SP『スーパーマリオ』の軽快さも、FPの和太鼓連打の正確さも素晴しい。でも、私がいちばんおどろいたのは、EXのパジャマ演技、そしてEXアンコールの『マリオ』。
なんなの、あの動きの、余裕っぷりは? JrのやるEXのレベルじゃないでしょ、これって・・・!
だいたいJrのEXっていうと、おぼえた振付をまちがいなくこなそうと必死で、ちっとも楽しそうじゃないのが多い。たいていは、きちんと滑るのにいっぱいいっぱいで、客席の反応どころじゃない(シニアでも、たまにこういう人がいるが)。おけいこごとの発表会を見るようで、正直、あまり好きじゃなかった・・05世界Jrを見るまでは。
信成くんのEXは、動きにゆったり余裕がある。上手にこなそうとさえしてないように見える。客席の反応を読んでるっていうより、いまは滑るのが、いや氷上で体を動かすのが楽しくてしようがないんだろうなあ。それが見てる側に伝わるから、こっちまでうれしくなる。『マリオ』はいつも両手の親指立てて、くぃ〜ん、くぃ〜ん♪ の動きをいっしょにやりながら見てるもんね! 寝ぐせ付き・つんつんヘアも可愛〜い!!
あの危なげなさ、心から楽しそうな動き・・ただものじゃない。

じっさい信成くんは、だれより「ヤグディンの再来」を、感じさせる。だって、ヤグディンのいちばんいいところが似てるもん。ステップや、演技がヤグ似の選手なら山ほどいるが、あれは“似てる”んじゃない、“似せてる”んだ。信成くんのすごさは、ジャンプも、ステップも、スピンも、だれの真似でもない、すでに独自のものを持ってる点にもある。
じゃ、どこが似てるかって・・。
FPを滑り終え、キス&クライで大泣きする信成くんを見て、ソルトレイク五輪で金メダル決定の瞬間のヤグディンを思い出さない人はないだろう。・・いや、あのときのヤグディンよりすごかったな。泣き声まで聞こえたもんね(笑)。城田強化部長がEX解説で「私の肩、びちょびちょになっちゃって」って苦笑まじりに言ってたほど。
いや、大泣きっぷりだけがヤグディン並み、なんていうつもりはないよ。

信成くんの動きには、リズム感がある。音楽に合わせるというより、音楽のほうから、かれの動きに合わせてるように錯覚する瞬間さえある。これはやはり、ゲーム世代のノリのよさ、それもいわゆる“音ゲー”になじんだ世代の、遊びできたえた音感と反射神経のしぜんな連動、というかな。
お武家の家系のせいか、顔だちはやや古風だけど、細身の体、すらりと長い脚、しなやかな膝のバネは、やっぱり、いまどきの若い子なんだなあと思わされる。(女子優勝の浅田真央ちゃんが、あまりにも日本人離れしたお見事なスタイルなせいか、信成くんの体型については、あまり注目されてないようだが)
そしてなにより、神さまの与え給うた必殺の武器、愛嬌がある。技術は磨けば光る、でも愛嬌は、意識して身につけられるものじゃない、天からの授かりもの。つまり、生まれながらにEX向けってこと。いやホント、どんなに技術が高くても、EX向きじゃない、本人も義務と思ってそうだし、観客としても心から楽しめないEXしかできない人ってのもいるんだから・・めぐまれてるねえ、信成くんは!

「オーケストラの指揮ってのは、優雅に見えるが、じつはたえず交通整理をしてるようなもの」と言ったのは、指揮者の岩城宏之さんだが、たぶんフィギュアスケートってのは、1人でその“指揮者=交通整理係”をしながら、同時に“オーケストラ全員”もやってるようなものだろう。そして、ひとつの演技ってのはたぶん、とっさの判断と、微調整の連続なんだろう。ミスって浪費した時間をどう切りつめるか、あるいは、あまった時間をどう埋めるか・・見てるぶんには、余裕しゃくしゃくに見えるけど。
リズム感があるってことは、その、観客には気づかないほどの微調整に、反射的に体がついていくってこと。だから、はじけて滑ると、音符をまきちらすようなノリのいい演技になる。
愛嬌があるってことは、その「優雅な見た目」に、楽しさがくわわること。つまり、観客に心地よさを与えるってこと。
男子にはめったにない、ひとまえでの大泣きも、つまりは、感情表現がゆたかだってこと。どうしても演技に“照れ”が出てしまいがちな日本の男子に、この屈託ないおおらかさは、破格だよ。
・・つまりこういうのが、ヤグディンの持ってる、いちばんいいとこ。信成くんに似てるとこ。
大泣きできる感性、リズム感、しなやかな体、愛嬌。さすがは、どの武器も業物(わざもの)にござりまするな、殿!

男子はとくに、ド派手な衣装で、可愛い演技ができる時期がみじかい。だいたいが、十代のうちだけ。そのあとは、ドラマチックで崇高な男らしさをめざす。ヤグディンも、そうだった。
でも、スコット・ハミルトンみたいに、何歳になっても愛嬌ある、可愛らしい滑りをする人もいる。そして、ばつぐんに上手い。しみじみさせ、笑わせ、泣かせ、思いのままに観客を翻弄する。よく磨いた美酒に酔うような、あの倖せ。
信成くんにはぜひ、将来は“和製ハミルトン”をめざしてほしい。きみなら、できる!!

追伸:そういえば、竹内“ワーシャ”洋輔くんが、タラママのとこへ修行に行ったとき、まだタラママ・チームにいたモロゾフさんが振付けた“ターザン”てあったよね? 「ヤグディンにはこんな振付できないから」って、楽しげに作ってくれたってプログラム。いろんな動物の表現が出てくる、ワーシャが1シーズン滑っただけの、あの演技。
あれ、信成くんがもらうわけには、いかないのかなあ?
信成くんが滑る、モロゾフ振付の“ターザン”が見たい! それがいま私の、ひそかな野望。
(了)


「フィギュアスケートへ、愛をこめて」もくじへTOPへ