| いきなりスタニック・ジャネット学 その1.王子さまが降りてきた 02−03シーズン、はじめてスタニック・ジャネットに「出逢った」気がした。・・いや、これまでも見てはいたけど。 いちばん印象に残ってるのは、例の01代々木GPFのSP。 白地に黒と銀、抽象柄の衣装。チェレスタらしき音、現代音楽っぽいBGM。(え、これで終り?)と呆然とするほど、独創的な振付。 衣装のマダラもようは、なんとなくホルスタイン牛みたいだった。むかし、なんかの景品で“モーモーつなぎ”っていう牛もようのパジャマがあって、ちょっとそれに似てたので、私はひそかにこの人を“モーモーつなぎの兄ちゃん”て呼ぶことにした。 上体の柔らかさと、ひざのバネが自慢なのは、ひとめで判った。体の柔らかさを生かしたスピンは凝った作りで、この点は好みだった。でももし誰かに「S・ジャネットの演技って好き? キライ?」と訊かれたら「ん〜、わかんない・・」としか答えようがなかったろう。 おなじように個性派でも、たとえば“羽根もつ人”イリューシャ・クリムキンなら、顔にも動きにも、しぜんな愛敬があるから「好き?」と訊かれれば「うん、好き!」と、すんなり答えられる。イリューシャのSPにも、かなりヒネった作りのがあるのにねえ。 S・ジャネットには、イリューシャみたいな愛敬を感じなかった。 眉間のタテじわ、しゃべるとき広いオデコにいっぱいシワをよせる顔つきも、こわかった。神経質そうな人の、神経質そうな滑りというか。若葉マークのフィギュア・ファンを寄せつけないような気配を感じてた。 “モーモーつなぎの兄ちゃん”なんて呼んだのも、多少、こういうフンイキへの反発があったかな、と思う。 フランスにはこういう選手もいるんだなあ、と思った。それだけ。 それからも見かけるたび、その印象が変わることはなかった。 ・・なのに。 かんじんのソルトレイク五輪シーズン、S・ジャネットはなんでか調子をくずし、国内5位に終り、五輪出場権も獲得できなかったと聞いた。それまでの3年間はいったい何だったんだろうとかなり悩んだ、とも。24歳っていう年齢も、微妙だったろう。 たしかに、ソルトレイク直前の02欧州選ビデオでかれを探してみたが、フランス勢はジュベール・ダンビエール・モニエールしか見かけなかった。 ということは・・その前季(01)には国内チャンプ、欧州選は銅メダルだったS・ジャネットは、この年わずか17歳だったジュベールくんにも追い抜かれ、欧州選に出ることもかなわなかった、ということか・・。 さぞショックだったろう。立ちなおるために、かれは自分を徹底的に変えよう、と決心したんだろう。それはもういっそ“自己改造”と呼びたいほどに。 さて・・ソルトレイク翌シーズン、03欧州選のSP。 部分的に金髪に染めた髪といい、おなかチラ見せ衣装といい、ぐっと若く見えるのに、まずびっくり。 (※この衣装、スロー再生でよく見たら、薄い肌色の透ける布を下に着てた。男子といえどもやはり、お肌むき出しは衣装規定違反なのか?) この、動くとお背中がかなり見えてしまう衣装といい、ジャズ系の音楽といい、かろやかな腰振りといい、ひとつ間違えばお下劣になってしまいそうなところを、いかにもフランス風に品よくまとめてたのは、さすがだった。 ジャンプの安定感が増したせいか余裕が感じられたし、ドラムとクラリネットの速いテンポに合わせて、ひょ〜い、ひょ〜いとカカトに乗るステップは鋭くて軽快、BGMに合わせてサキソフォンを吹いてみせる振付はとくに素敵で、「おっ♪」と、うれしく驚いた。体も、絞りこんで痩せた気もするが、あの“モーモーつなぎ”はやけに横広に見えたから、そのせいかも?・・顔や手脚はもともと細い人だしね(なぜか首だけはやや太いんだけど)。 キスクラには“モーモーつなぎ”時代の金髪美人&金髪のっぽのコーチの代わりに、横顔がちょいとジャン・ギャバンに似て、にがみばしった、黒革ジャンのおじさまがいた。そのとなりには振付を担当したという、アイスダンスのペイゼラの見なれた顔が見えた。 ん? ・・と思ったのは、たいていキスクラって選手をまん中に、コーチと振付師が両側にすわるのに、なぜかこのときS・ジャネットはすみっこにすわり、渋〜いおじさまコーチが、でん☆ と、まん中に陣どってたんですね。寄りそってる金髪巻毛のペイゼラは皆様ごぞんじの美形だし、なんだか誰が主役かわかんないようなキスクラで、笑ってしまった。S・ジャネットのキスクラ見て笑ったのは、初めてだった。そのことだけでも前季までの、初心者を寄せつけないような冷やかなフンイキとは、かなり違うな、と思った。 ところで演技のあと、選手が靴のブレードにかぶせるカバーみたいの(?)、アレを、だれも渡してあげなかったんですかね。かわいそうにS・ジャネットは、キスクラまで、きょろきょろあたり見回しながら歩いてたようだったけど・・? さらに、うわあぁ〜!! と目からウロコが落ちまくったのが、FP『星の王子さま』。 星空と砂漠をイメージした青〜茶系のぼかしに、金の星を散らし、金のマフラー。この衣装だけでも、ひとめ見るなりドキドキもの。 そして演技。かれ独自の柔らかい上体を生かした、ヘビの動きの表現。スケート・カナダでは手袋を使ってヘビを表現しようとして、衣装規定にひっかかって手直ししたらしいが、そんな小細工、ぜんぜん必要なかったのに! なんども見なおして確信したが、この演技は終始、ヘビだけを演じてみせてた。 それ以外は、オープニングで可愛い王子のしぐさを見せたのと、終盤の“頭上に輝く星”、フィニッシュの“胸元から大切そうにスーッと取り出される、小さな星”、それだけ。このテーマの絞りこみは、正解だったと思う。『星の王子さま』ってどんな話だったっけ? ヘビってどんな役割だっけ? ってツッコまずにはいられなくなってしまったもの。(※これは長くなるので、別ページ「その2.『星の王子さま』のヘビの役割とは?」にて) もともと、異様なほど上体の柔らかなS・ジャネットは、何を演じてもヘビの動きみたいでは、あった。それもこのテーマが成功した一因と思う。 でもなにより、フランス人サン=テグジュペリの書いた『星の王子さま』を、フランス人ペイゼラが振付け、いかにもフランスらしくあかぬけた衣装と、音楽で、フランス人S・ジャネットが演じたってのは、それまでの彼にない“国の誇り”を背負ってるような、迫力があった。これはおれが演る、他のだれにも演じさせない、とでもいうような・・。 にこりともせず、でも両手を挙げてガッツポーズして走りまわる渋〜いおじさまコーチ。笑顔と拍手かっさいで見守り、フェンスまで出迎えてS・ジャネットと抱き合ってた振付のペイゼラ。こんどは主役が、キスクラも堂々とまんなかで(笑)・・だからそれがフツウなんだってヾ(^△^;) ここまでだけでも、あれれS・ジャネットってこんなに良かったっけ? と見なおすのに充分だったのに、さらにダメ押し、このときのEXときたら、ああもう〜〜!! 袖まくりの白シャツさらりと着て、『マイ・ウェイ』をBGMに、S・ジャネットが滑りはじめたとたん、うあぁ〜やられた、惚れた! と思った。見てるうちに、自分の眼のなかにハートマークがキラキラしてくるの実感したわ(笑) ヤグ・ファンなら、ヤグディンが『スタンド・バイ・ミー』『マイ・ベイビー・ユー』でEXを滑ったときの、あの爽快感を、眼がおぼえてるだろう。高いジャンプと、精密なステップを叩きこんだ充実で、いつも微熱を帯びてるような、あの脚。 技術の高さをそなえた上で、さらに、体の内側からふつふつ湧き出てくるものに憑き動かされてるような、もどかしげな、喜ばしさ。競技はもう終った、いまはもう、ぼくには祝祭のとき、だってほら、こんなにスケートが好きなんだもの、見て見て、こんなに、こんなに・・と言わんばかりの、あの動き。 あのときのS・ジャネットにも、それがあった。ヤグディン以外に、そんなEXを滑れる人がいるとは知らなかった。ヤグディンがいないシーズンだけに、よけい切なく、身にしみた。 たいせつな五輪シーズン、思いがけない挫折を耐えぬいて、S・ジャネットはたぶん、あらためてスケート大好きになれたんだろう。こういう滑りを見せてくれる人に、惚れないわけには、いかないではないか! そんなわけで02−03シーズン、はじめてスタニック・ジャネットに、出逢えた。 なんとなく近寄りがたかった“モーモーつなぎの兄ちゃん”は、高いとこから降りて来てくれて、親しみやすい、素敵な王子さまになっていた。 これからのシーズン、氷上に出てきただけで「おっ、いたいた。元気だったのね」って微笑で迎えられる、ごひいき選手が1人ふえた。すごくうれしい(^.^*) ツッコミ甲斐のある演技をこれからも、ひとつ、お願いしますよ。 ところでS・ジャネットっていつも、タテに1本線の入った、丸い白のチョーカーしてるのね。 (※01GPF“モーモーつなぎ”は立襟だから見えないけど、00−01世界選でもしてるの確認) ロザリオなら珍しくないけど、アレってどういういわれがあるんだろう? 後記:あの黒革ジャケットの似合う、ジャン・ギャバン似のコーチは、名物男らしい。その後、世界Jrの、フランス選手のキス&クライで、「ふん〜ふん〜ふん〜セ・ビア〜ン♪」なんて言ってるのを、ときどき見かける。 S・ジャネットは、あれきりどの競技会でも見かけなくなってしまったが、どなたか消息をごぞんじありませんか? “タテに1本線の入った、丸い白のチョーカー”は、海外ドラマ『OZ』でも、刑務所に潜入した黒人の捜査官が、そっくりなのをしてた。ますます気になる。ひきつづき調査中。(05.4/1加筆) (了)
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